「ざ、財産分与だって……?」
夫のワイングラスを持った手がブルブル震え、注がれたワインが大きく左右に揺れている。
今にもこぼれてしまいそうだ。
「はい、そうです。父から聞いています。ここへ嫁ぐときに大金を持たせているって。だからいいですよね? 財産分与として、何か下さい」
伸ばした両手を上下させる。
「う……わ、分かった! 分かったから両手を降ろせ!」
「はい」
両手を降ろすと、夫はワインを飲み干し、グラスを置いた。
「なるほど……決心は固い、ということだな?」
「はい。私の顔を見るのも、うんざりなんですよね?」
夫は「うっ」と息を詰まらせると、傍に控えていた髭の大男に命じた。
「あれを」
「はい」
髭の男性は返事をすると私の傍にやって来て、じっと見下ろしてくる。
う……何という迫力。
「あ、あの……?」
怖い、何をされるのだろう?
「奥様……」
「は、はひっ!」
怖くて変な返事をしてしまった。
「これをどうぞ」
髭男はスッと封筒を差し出してきた。
「え……?」
恐る恐る受け取ると、男性は会釈して去っていく。
「開けてみろ」
「はい」
夫の言葉に封筒から紙を取り出し、広げた。
「こ、これは……」
「フン、どうだ? 驚いたか?」
「はい! 驚きましたよ! だって見たこともない文字なのに読めるのですから!」
「はぁ!? 本気で言ってるのか!?」
「こんなこと冗談でも言えませんよ。どれどれ……ここからおよそ50キロ離れた侯爵家の辺境領地。木造三階建ての古い家屋。家財道具は古いけど一式揃っている。
使用人無し、村人の数は30人ほど。主な財源は農業……なるほど、なるほど」
「……どうだ? 気に入ったか?」
ニヤリと笑う夫。
「はい! とても気に入りました! ありがとうございます!」
ガタンッ!
夫が椅子から転げ落ちた。
「え? 大丈夫ですか!?」
「旦那様!」
大男が駆け寄り、夫を助け起こした。
「お、お前……本気でそんなことを言ってるのか!?」
椅子に座り直すと、問い詰めてくる。
「はい、私はいつだって本気ですから。こんな素敵な場所を与えてもらえるなんて……あっ!」
大事な部分に気付き、思わず驚きの声が出てしまった。
「ん? 何だ、その顔。やはり、そこでは不満があるのだろう?」
顔を上げると、夫の口元が嬉しそうに笑っている。
「あの、お願いがあるのですが……」
「お願いだと? 言っておくが、そこ以外はお前に与えられる場所はないからな?」
「いえ、そうではありません。ここまで誰かに送っていただけないでしょうか?
もし無理なら馬車の手配をしていただきたいので。明日の朝一で」
「あ、朝一だと!」
ガタンと夫が立ち上がる。
「駄目でしょうか? それとも今夜発った方がいいですか?」
まぁ、ほぼ荷造りは終わってるから問題ないけど。
でも、出来れば明るい時間に出発したい。
「そうか……冗談ではない、ということだな? 分かった。だが、今夜は無理だ。人手がいるからな」
椅子に座り直す夫。
「では明日の朝一なら良いのですね!?」
「グッ……そ、そうだ……だがな? 馬車を用意してもらえるとは思うなよ? お前ならせいぜい荷馬車だ。どうだ?」
「すごい! 荷馬車を用意していただけるのですね!?」
嬉しくて身を乗り出す。
「何!? 馬車ではない、荷馬車なんだぞ!? それでもいいというのか!?」
「はい、持っていく荷物が沢山あったので、ちょうどよかったです。ありがとうございました。あ、それと明日の朝食ですが、私の部屋に運ぶように伝えて下さい」
カタンと席を立つと、夫が目を見開く。
「え? 自分の部屋でだと!?」
「はい。だってあなたも私のこと嫌いですよね?」
(どうせ私は使用人たちからも嫌われているし)
「何!? お前もだと!?」
なぜかショックを受けた顔になる夫。
「はい、それでは失礼いたします。今までお世話になりました。離婚届は代筆で書いておいてください」
どうせ自分の名前も分からないしね。
ペコリと挨拶すると、私は意気揚々とダイニングルームを後にした――
夫のワイングラスを持った手がブルブル震え、注がれたワインが大きく左右に揺れている。
今にもこぼれてしまいそうだ。
「はい、そうです。父から聞いています。ここへ嫁ぐときに大金を持たせているって。だからいいですよね? 財産分与として、何か下さい」
伸ばした両手を上下させる。
「う……わ、分かった! 分かったから両手を降ろせ!」
「はい」
両手を降ろすと、夫はワインを飲み干し、グラスを置いた。
「なるほど……決心は固い、ということだな?」
「はい。私の顔を見るのも、うんざりなんですよね?」
夫は「うっ」と息を詰まらせると、傍に控えていた髭の大男に命じた。
「あれを」
「はい」
髭の男性は返事をすると私の傍にやって来て、じっと見下ろしてくる。
う……何という迫力。
「あ、あの……?」
怖い、何をされるのだろう?
「奥様……」
「は、はひっ!」
怖くて変な返事をしてしまった。
「これをどうぞ」
髭男はスッと封筒を差し出してきた。
「え……?」
恐る恐る受け取ると、男性は会釈して去っていく。
「開けてみろ」
「はい」
夫の言葉に封筒から紙を取り出し、広げた。
「こ、これは……」
「フン、どうだ? 驚いたか?」
「はい! 驚きましたよ! だって見たこともない文字なのに読めるのですから!」
「はぁ!? 本気で言ってるのか!?」
「こんなこと冗談でも言えませんよ。どれどれ……ここからおよそ50キロ離れた侯爵家の辺境領地。木造三階建ての古い家屋。家財道具は古いけど一式揃っている。
使用人無し、村人の数は30人ほど。主な財源は農業……なるほど、なるほど」
「……どうだ? 気に入ったか?」
ニヤリと笑う夫。
「はい! とても気に入りました! ありがとうございます!」
ガタンッ!
夫が椅子から転げ落ちた。
「え? 大丈夫ですか!?」
「旦那様!」
大男が駆け寄り、夫を助け起こした。
「お、お前……本気でそんなことを言ってるのか!?」
椅子に座り直すと、問い詰めてくる。
「はい、私はいつだって本気ですから。こんな素敵な場所を与えてもらえるなんて……あっ!」
大事な部分に気付き、思わず驚きの声が出てしまった。
「ん? 何だ、その顔。やはり、そこでは不満があるのだろう?」
顔を上げると、夫の口元が嬉しそうに笑っている。
「あの、お願いがあるのですが……」
「お願いだと? 言っておくが、そこ以外はお前に与えられる場所はないからな?」
「いえ、そうではありません。ここまで誰かに送っていただけないでしょうか?
もし無理なら馬車の手配をしていただきたいので。明日の朝一で」
「あ、朝一だと!」
ガタンと夫が立ち上がる。
「駄目でしょうか? それとも今夜発った方がいいですか?」
まぁ、ほぼ荷造りは終わってるから問題ないけど。
でも、出来れば明るい時間に出発したい。
「そうか……冗談ではない、ということだな? 分かった。だが、今夜は無理だ。人手がいるからな」
椅子に座り直す夫。
「では明日の朝一なら良いのですね!?」
「グッ……そ、そうだ……だがな? 馬車を用意してもらえるとは思うなよ? お前ならせいぜい荷馬車だ。どうだ?」
「すごい! 荷馬車を用意していただけるのですね!?」
嬉しくて身を乗り出す。
「何!? 馬車ではない、荷馬車なんだぞ!? それでもいいというのか!?」
「はい、持っていく荷物が沢山あったので、ちょうどよかったです。ありがとうございました。あ、それと明日の朝食ですが、私の部屋に運ぶように伝えて下さい」
カタンと席を立つと、夫が目を見開く。
「え? 自分の部屋でだと!?」
「はい。だってあなたも私のこと嫌いですよね?」
(どうせ私は使用人たちからも嫌われているし)
「何!? お前もだと!?」
なぜかショックを受けた顔になる夫。
「はい、それでは失礼いたします。今までお世話になりました。離婚届は代筆で書いておいてください」
どうせ自分の名前も分からないしね。
ペコリと挨拶すると、私は意気揚々とダイニングルームを後にした――



