「もう、うんざりだ」と言われたので、出ていきますね

「使用人たちから聞いたぞ? 公爵夫妻が会いに来たらしいじゃないか」

夫はワイングラスを手に取ると、くるくる回す。

「はい、そうです」

何だ、知ってたのか。
でも義両親が会いに来たのに、挨拶をしに顔を見せなかった……。

しかも、実家の方が身分は高いはずなのに。

(なるほど。つまり夫は両親も嫌っているということね)

私は手にしていたパンを口に入れて、ゴクンと飲み込む。

「それで言われたのだろう? 出戻ってくるような真似は絶対するなと。つまり、今のお前は実家を頼ることは不可能。何処にも行き場はないということだ」

夫は優雅な手つきで魚の身をほぐして口に運ぶと、引き続き言葉を紡ぐ。

「俺にかまってほしくて、メイドにそそのかされて毒を飲むとは……本当にどこまで愚かな女なんだ。お前の行動がどれだけ俺に迷惑をかけ続けているか分からないのか!?」

鋭い眼差しで睨みつけられた。

「はぁ……」

でも、そんなこと言われても全く覚えていないのだけど。

(できれば食事中にお説教は遠慮して欲しいなぁ)

今はただ、目の前の料理に集中したかった。

「とにかく、あのふざけたメイドはクビにした」

「そうなのですね」

ふざけたメイド……。
多分、私に毒を渡してきたメイドのことだろうな。
一体どんな人物だったのだろう?

頷きながら生ハムとチーズを頂く。
うん、この組み合わせは最高!

「……あのメイド……。お前に毒を飲ませただけでは飽き足らず、この俺にまで色目を使ってくるとは。自分の立場もわきまえず。勝手に俺の私室に入ってジャケットを羽織って身もだえしている姿を目撃した時は鳥肌が立った」

夫はワイングラスを握りしめ、一気に飲み干す。

(え? ジャケットを羽織ってた……?)

「それはすごい現場ですね! 私もその様子を見てみたかったです!」

「はぁ!? ふざけるな! 俺がどれだけゾッとしたか、お前には分からないだろう! だから、あのメイドはクビにしてやったのだ」

なるほど。
つまりそのメイドがクビにされたのは、私に毒を飲ませたからではない。
自分の服を着て身もだえしている姿を目撃したからだと。

まぁ、確かにそんなことされたら気持ち悪いかもね。

「……それで、先ほどの話に戻る。本当にここを出ていきたいのか? 俺は別にお前を引き留めるつもりは毛頭ないがな」

ニヤリ、と笑う夫に即答した。

「はい! 出ていきたいです!」

「何!? 本気で言ってるのか!?」

「はい、本気も本気ですよ」

だってこの屋敷の人、全員から嫌われているんだから。
無理してここで暮らす必要はないし。
第一、今まで食事だってくれなかったのだから。

ま、今は豪華な食事にありついているけどね。

「な、なるほど……意志は固いという訳か。まぁこちらもお前の様に騒がしい妻にうんざりしていたからな」

「なら、離婚ということでよろしいですね?」

ワインを一口飲んでみた。
……美味。

「ふ、ふふん。なるほど、いいだろう。離婚……望むところだ」

「ありがとうございます! それでは財産分与と言うことで、とりあえず、何か下さい」

私は満面の笑みで両手を伸ばした――