「もう、うんざりだ」と言われたので、出ていきますね

「え? 記憶喪失……?」

メイドの顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。

「そう、そうなのよ!」

両手を組んでウンウンと頷く。
だから……ダイニングルームまで案内してください!

「ウッ」

突然、メイドが顔を押さえて俯いた。
もしや、私が記憶喪失だと分かって同情を……?

「フ……アハハハハハハッ!」

突如、高笑いを始めるメイド。

な、何!?

「あの~大丈夫? もしや頭がおかしくなってしまった?」

声をかけると、メイドは顔を上げた。

「はぁ!? おかしくなったのは、むしろ奥様の方ではありませんか? それとも新手のかまってちゃんですか?」

かまってちゃんて……。

「え?  別におかしくもなってないし、かまってちゃんでもないけど……?」

あ、でも記憶喪失になってるから、おかしくはなってるかも。

「とにかく! 私は忙しいのです! 他にやらなければならない仕事は山ほどあるし。では失礼いたします」

全く相手にしようとせず、背を向けるメイド。

「はぁ!?」

(冗談じゃないわよ、逃がしてたまるか!)

メイドのエプロンの紐をぐっと握りしめると、彼女は鬼の形相で振り返った。

「ちょっと! 何をなさるのですか!! 放してください!」

「いいえ! 死んでも絶対離さないわよ! ダイニングルームの場所を教えてもらうまではね!」

睨みあう私とメイド。

「あぁもう! 分かりましたよ! ダイニングルームでしたら、この二階。白い扉に金のレリーフが刻まれたお部屋です! これでいいですか!?」

「あ、そうなのね?」

パッと両手を放した。

「まったくもう……何なんですか! この忙しいのに!」

メイドはぷんぷんしながら去って行った。

「どうもありがと~」

去り行くメイドの背中に手を振ると、私は顔を引き締める。

「二階ね……フッ。ようやくご馳走にありつけるのね?」

足さばきの悪いスカートを両手で少し持ち上げると、足早にダイニングルームを目指した――

****

「はぁ……はぁ……こ、ここね……」

肩で息をしながら、メイドが教えてくれた扉の前に到着した。

それにしても遠かった。
私の部屋は四階の一番手前。
そしてダイニングルームは二階の真ん中だ。

「そ、それにしたって……い、嫌がらせ? 夫の執務室は二階にあるのに、私の部屋は四階なんて……遠すぎるじゃない……」

まあ、いいか。
私はこの屋敷を出て行くのだし。
どうせ誰からも無視されてるしね。

ここへ辿り着くまでに、大勢の使用人たちとすれ違った。

その誰もが私を無視し、挨拶すらしなかった。

現に今だって私の目の前を行き来している使用人たちがいるけれど、全員知らんふりを決め込んでいる。

私は息を大きく吸い込むと、ドアノッカーを握りしめて勢いよくノックした。

――コンコン!

「失礼しま~」

そのままノブを掴んで、大きく開け放ち……。

「ひええええ!!」

私は思わず叫び声をあげてしまった――