恋を知らないきみへ

結局、そこそこ時間をかけて並んでやっとのことで席に戻ってきた時には、木ノ下くんはとっくにランチを食べ終わって真剣な顔でノートパソコンを見ていた。

「うわぁ……ごめん」

つい謝ると、彼はちらりとだけこちらを見るだけで、すぐに視線を画面へと戻す。

「いいよ。そっちこそ、食べながらでいいの?休む時間ないじゃん」

「私はいつもこんな感じだから平気」

そう言って春雨サラダとスープが載ったトレイをテーブルに置くと、私のそのメニューに気づいた彼が目を丸くした。


「……は?昼飯、それだけ?」

「え、うん」

「少なすぎじゃないの」

「もう外回りで暑くて、食欲なんてないよ」

「……そういうもんなのか」

木ノ下くんはそれ以上はなにも言ってこなかった。

代わりに、パソコンのキーボードでなにか打ち込みながら話を切り出してきた。


「昨日の続きなんだけど」

彼の頭の中は、どうやらもうコンセプトのことでいっぱいのようだ。
私も食べながら耳を傾ける。

「"毎日に余裕が生まれる家"っていう。あれ、好きなんだけど、まだコンセプトって呼ぶには若干弱いような気がしてるんだよね」

「えっ、そうかなあ。私はそこが一番の強みかなって思ってた」

「コンセプトってさ、一番伝えたいことでしょ?つまり、一個でいいんだよ。分かりやすくて簡単な一個」

「一個なんて無理だよ」

食べ進めていた箸を止めて、押し切られないようにちゃんと自分の意見を主張する。

「伝えたいこと、いっぱいあるもん」