恋を知らないきみへ

私が社食に到着した時には、もうすでに食堂内は賑わっていた。
ちょうどお昼時だから混雑は予想していたけれど、これじゃ席を取るのも大変だ。

バッグを肩にかけたまま見渡すと、この前も座った食堂の一番端の席に見覚えのある顔を見つけた。


「木ノ下くん!」

声をかけると、視線が上がる。

彼に近づいて気がついた。
もうすでに大盛りご飯のランチが置いてあって、“週替わりランチ”のチキン南蛮。これも前と同じ。

とりあえず向かいのイスにバッグを置きながら、腕時計を見やる。

「ごめん、遅くなっちゃって……」

「九分すぎてる」

「ご、ごめんて……」

「いや、全然いいよ。先にメシ食べよ。なんか持ってきなよ」


私がランチのトレイも何もなくバッグだけ持ってきたものだから、木ノ下くんなりの気遣いなんだろう。

でも──、と混んでいる社員の列を見て迷う。

「あれに並んでたら、打ち合わせする時間減っちゃう」

「大丈夫だよ。夕方も夜も会うんだから。それよりもちゃんと食べた方がいい」

「……分かった」


ここは大人しく、彼の言う通りきちんと食事をとろう。
と思い直して、急いでランチを取りにその場を離れた。