恋を知らないきみへ

返事をしながらも、ついさっきやり取りしていたチャット画面へ目が向く。

【今日は三回に分けて打ち合わせしよう。都度連絡よろしく】

チャットを見つめる。

昨日、私のスケジュールを見てからだ。
本当に、この人は合わせるつもりなんだ。


「……木ノ下くんも大変だよね」

思わず口からこぼれた言葉に、桃果が「ん?」と顔を上げる。

「あれ?その木ノ下って……」

「うん」

「前はむかつくって言ってなかった?」


そこでなんとなく思い出す。
彼女に、木ノ下くんと組んだばかりの時に愚痴っていたことを。

もうあの時は合わなすぎて、会話も噛み合わなすぎて、先が見えなかった。

それを考えると、だいぶお互いに歩み寄った気がする。


「今でもむかつく時はある。あるけど……」

言いかけて、最大限に彼が私の方へ譲ったであろう、【都度連絡よろしく】が視界に入る。

「……なんか、うまく言えないけど。仕事になると、ちゃんとしてる。……仕事だけは」


認めたくない気持ちが先行しすぎて、ついつい“仕事だけは”なんて付け加えてしまったけれど。

私の謎の葛藤には気づいていないのか、桃果は平和な笑い声を上げていた。


「なんだ、意外と木ノ下と仲良くやってんじゃん」

「仲良くはない!……ぶつかってばっか」

「そう?少なくとも、前に聞いた時とは違う感じに聞こえるけど」

「……えっ、そうかな」

「うん。“やりづらい”とか“数字しか見てない”とか言ってたから心配してたんだよ?」


そういえば、そんなことを桃果に愚痴ってしまった記憶がうっすらある。

確かに、最初はそうだった。
嫌われてる。合わない。無理だ。

そう思っていたことだけは、ちゃんと覚えている。


「一緒にいると見えてくるものがあるのかもね」

そう言った桃果の口調はいたって軽かった。
なんでもないことみたいに、特別なことなんてないみたいに。


私は返事ができなかった。

木ノ下くんが変わったのか。
それとも、私が木ノ下くんを見る目が変わったのか。


……その答えは、自分でもまだ分からないままだった。




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