恋を知らないきみへ

私の抱えるタブレットに、悪気はなさそうに木ノ下くんが手を伸ばそうとしてきた。

反射的に腕の中に抱え込んで、見せるまいと隠す。

「やだ。絶対なんか言うもん。引くよ」

「まあ、引くだろうけど。どんなもんか確認するだけ」

「ねえ、コンセプトの打ち合わせ、明日にしてもいい?」

「スケジュール見せてくれたらね」

「なんでそんなに見たいの!?」


言い返しているうちに、隙をついてするりとタブレットを腕から抜かれた。

「返して」と抵抗してみたものの、身長的にもはや手が届かないところに掲げるようにして、私のタブレットのスケジュールを彼が確認している。

……ああ、全部見られてる。
自分の仕事の中身を他人に見られることなんて、なかなかない。


そうこうしているうちに、木ノ下くんはさっさとスクロールして私の予定を一週間分くらい確認してしまった。


「……予想以上だ。ここにまた次々に追加されるんでしょ?」

「それはそうなんだけど。来週までにはコンセプト決めないといけないじゃん」

「昼飯とかどうしてるの?昨日みたいな、あの“休めない感じ”で毎日食べてるの?」

「え?あれはいつものことだよ?」


誰かに話しかけられたり。
電話が鳴ったり。
お客様から急に呼ばれたり。

そんなことは、営業なら毎日のことだ。
だから特別だなんて、一度も思ったことがなかった。

普通に答えてしまったけれど、途端に彼がげんなりしたように眉を寄せたので、たぶん私の答え方は正解じゃないんだなって察する。


木ノ下くんはようやくタブレットを私に返してくれた。

「……小関さんって、ずっとこんな感じで働いてるの?」

「えっ、うん……」

「そっか……」