恋を知らないきみへ

彼が言ったその一言が、思っていたより胸に残る。
“営業の考えも、ちゃんと知りたい”。

昨日までなら、「また否定されるかもしれない」って、そう身構えていたはず。

でも今日は違った。
初めて、同じ方向を向いて話している気がした。


「じゃあ……」

私はペンを持ち直して、木ノ下くんと目を合わせる。

「今日は、お互い最後まで話そ。その上で決めよう」

「うん。分かった」


それならば早速、と営業用のタブレットを開いてパソコンの横に並べる。

これからの予定の確認と、そして今後の流れについて話そうとした時、はっとして操作していた手が止まった。

午後からの予定を確認して、思わず固まる。


「……ちょっと待ってね」

ひとり言みたいにつぶやいてから、タブレットのスケジュールの画面から動けない。


今日中の案件が、まだ二件。
それから、展示場のお客様への連絡。
契約前のお客様からの折り返し。
メールも十数件溜まっている。

頭の中で優先順位を組み立てようとした瞬間、思考が止まった。


フリーズして動かなくなった私に痺れを切らしたらしい木ノ下くんが、不思議そうにこちらを覗き込んでくる。

「どうした?」

「……本当はここでもっと色々話し合いたいんだけど」

なんと言うのが正解なのか分からないまま前置きをして、言葉を絞り出す。

「でもこのままだと、私の今日の仕事が終わらない」

「なに?どういうこと?」

「ちょっと、予定が立て込んでて……」

「どのくらい?見せて」