恋を知らないきみへ

少し考えるように私を見た彼が、面白そうに目を細めた。

「……なるほど。営業は出口から考えるんだね」

「出口?」

「お客様にどう届けるか、それを考えてる」

そう言って今度は自分の胸に手を当てる。

「マーケの俺は入口。ブランドをどう作るかを最優先に考えてる」


私はつい黙り込んでしまった。


そう言われてみれば、その通りだった。

……というより。
木ノ下くんは、最初からずっとそこを見ていたんだ。

私は届けることばかり考えていた。彼は作ることばかり考えていた。
だから何度話しても噛み合わなかった。

そう考えると、昨日までの言い合いまで全部つながる。


「……さっき部長が言ってたね」

私がぽつりと言うと、木ノ下くんが顔を上げた。

「営業は営業らしく。マーケはマーケらしくって」

「うん」

「たぶん私たち、ずっとそれやってたんだね」


彼は特別驚くような顔をするでもなく、当然のことだとでも言うようにすんなりうなずく。

「そうだよ。だから俺は反対してる」

「私も反対してる」

顔を見合わせて、思わず二人で吹き出した。

さっきまでの張り詰めた空気が、少しだけほどける。


「“ちゃんとぶつかって”って、こういうことだったのかあ」

私がそう言うと、木ノ下くんはイスにもたれて

「まあ、そうだろうね」

と、少しだけどこか真面目な顔になった。

「……でも。部長、もうひとつ言ってた」


私はすぐに思い出す。

『相手の話は最後まで聞くこと』

メモに書いたその文字を指でなぞる。


「……私、ちゃんと木ノ下くんの話聞く」

そう言い切って言葉にした途端、不思議なくらい肩の力が抜けた。

木ノ下くんも資料を開き直す。

「俺も小関さんの話聞くよ。営業の考えも、ちゃんと知りたい」