恋を知らないきみへ

画面には、

『家事も、育児も、仕事も。無理を減らせる住まい』

という文字。


私は身を乗り出して、木ノ下くんの肩を叩く。

「“毎日に少し余裕が生まれる家”もどこかに入れて」

「あー、それいいね」

「そういうことだよね?」

「そうそう、“生活が回る”は結果の話であって、回るようになったのは、時間にも気持ちにも余裕ができたからだと思う」

「それだー!」


展示場でクタクタになるまで聞き回って、眠気と戦いながら運転して帰ってきた疲れがふっと軽くなる気がした。

思わず笑みがこぼれて、木ノ下くんにそれを向ける。

「なんか昨日までなんとなく作ってたのが、一気に形が見えてきた感じがする!」

彼は一瞬だけ私を見たあと、

「……そうかもね」

とだけ返して、またすぐに画面に視線を戻すと立ち上がった。

「とりあえず印刷してみる。紙で見た方がまた印象違うはずだから」


近くにあったコピー機から今さっき私たちが作った資料が音を立てて吐き出される。

木ノ下くんに続いて私もコピー機に近づき、印刷ほやほやのそれを二人で何度も見直した。


「……うん。昨日より、ずっといい」

どこか噛み締めるみたいに、それでも満足そうに木ノ下くんが笑う。

「七組聞いてきて正解だったね」


彼が言ったそのなんでもないような言葉が、染みる。

私も改めて資料へ目を落とす。
何度も赤ペンで直した跡が頭に浮かんだ。


展示場で聞いてきた七組の声。部長と課長の言葉。木ノ下くんが集めてくれた膨大なデータ。

その全部が、ちゃんと一つにまとまっていた。


「明日、これを部長たちに提出しよう」

木ノ下くんは資料をもう一度見つめてから、

「これなら伝わる」

と、小さく言った。


「……うん」

うなずいた私は、彼のその一言で十分だと思った。


午後から展示場を走り回ったことも、赤ペンで何度も書き直したことも、悔しかった朝の会議も。

全部、今日に必要な時間だった。