恋を知らないきみへ

“気兼ねなく”もなにも、彼との接点はほぼないというのに。
同期とはいえ交流もなくここまで来たことを、上司であるこの二人はそこまで配慮していないのだろう。


仕事とは違うことに頭を悩ませていると、部長がこの場をフォローするみたいに「まあ、とりあえず」と明るい声を出す。

「いきなりブランドを作れとは言わない」

用意しておいたらしい資料を、私に遅れて渡してきた。

「まずは"今の二十代後半から三十代前半が、家に何を求めてるか"を調べてほしい」

「営業の現場感覚と、マーケティングのデータ、両方必要だから若い二人に頼みたい。三週間後の役員会議で使う資料を作りたいんだよね」


部長と課長が二人揃って私を見るものだから一応笑顔は向けたものの、はっと我に返って愛想笑いしてる場合じゃないと気づく。

急いでただ座っているだけの男に話を振る。

「あなたは?この話、進めていいの?」


まさか自分に話しかけてくると思っていなかったらしい。
彼は少し驚いたように目を見開いたあと、すぐにそれを細めた。

そして、ひと言だけ私につぶやく。

「特に異論はないよ」

ぱたん、と資料を閉じると部長たちににこっと初めて笑みを浮かべた。

「部長、課長、引き受けます。いったん二週間後に原稿上げます」


彼のその言葉で、部長たちは顔を見合せて嬉しそうにうなずき合う。

「新ブランドのコンセプトを考えると、俺たちよりは若者に任せた方がいい方向に進む気がするよ」

「そうですね」

「楽しみにしてる」

部長たちはそれぞれ私と彼の肩を軽く叩くと、「よろしくね」と小会議室を出ていってしまった。