恋を知らないきみへ

その課長が次に口を開く。

「それで、手始めに新ブランド立ち上げに向けた傾向を掘り下げることになって。だからまぁ、今回は若年層向けだから、若手にいったん預けてみようかと」

「うん。で、営業部からは小関さんがいいかなと思ってさ。ここ一年の成績も文句なしだし」

「小関さん、うちの部署でも評判いいよ〜。成績優秀な上に美人さんだし」

「……ありがとうございます」


謙遜するのも変かな、とお礼だけ告げる。

営業部長からはいつもの満足そうな笑みがこぼれていた。
……この顔、部長は私といる時によくしている。


「───で、マーケ部からはこちらの木ノ下くんを推薦したんだよね」

頃合を見計らったようにマーケティング部の課長が間に割って入り、静かに座っている例の私の同期の男に目をやった。

彼は彼で、自分の名前を呼ばれたというのに大した反応も返すことなく目だけ伏せる。


……あんまり人と話すのが得意じゃない人なのかな。
もしくは、静かすぎる人なのか。


私が彼を思わず観察していると、ふと課長が思い出したように私の方に向き直った。

「そういえば、小関さんと木ノ下くんは同期なんだってね?」

「───はい、まあ……」

「だから気兼ねなく打ち合わせもできるかなと思って君たちを選んだんだよね」

「は、はい」

歯切れの悪い返事をしておいたものの、彼の苗字を聞いてもなにも思い出せなくて咳払いをする。

あちらは当然、興味がなさそうに手元の資料を眺めていた。