恋を知らないきみへ

帰りの電車の中で、完全に気が抜けた私は木ノ下くんの肩に寄りかかっていた。

それを特に嫌がることもなく、彼はスマホをいじっている。


時事ニュースを見ている彼のスマホを眺めながら、「木ノ下くん」と呼びかける。

「木ノ下くんのご家族、みんな素敵だったね」

「……普通じゃない?」

「お父さんもお母さんがホンワカしててさ、お兄さん夫婦もめっちゃ優しくてさ、良太くんも可愛かった〜」

「べた褒めだね」

「唐揚げ、今度作るからね」

「それは楽しみ」

唐揚げのくだりだけ、やけに食い気味なのが面白くて吹き出す。


「……うちの両親が木ノ下くんに会いたいって言ったら、どうする?」

私がふと尋ねると、びくっと突然木ノ下くんが姿勢を正した。

「えっ、会いたいって言ってるの?」

「まだ話もしてないけど」

「……してもいいよ」

「ほんとにそんなこと思ってるー?」


困った顔が見たくてつい意地悪な言い方をしてしまったけれど、思いのほか木ノ下くんはすんなりと答えた。

「ちゃんとしたいと思ってるよ」

「……期待させないでよ」

「俺がなんも考えてないみたいに言ってるでしょ」

「考えてるの?」

「……それは、まあ」


曖昧な答え方だけど、それでも十分だった。
嬉しくて、もう一度彼の肩に寄りかかる。

しばらくして、小さくスマホをしまう音がした。

「小関さん」

「うん?」

「……次は、そっちの実家に行くよ」

その一言だけで、胸がいっぱいになる。


「新幹線で二時間だよ?」

「うん、知ってる」

「丸一日かかるよ、たぶん」

「それでも行く」


返事の代わりに、私はもう一度だけ、そっと彼の肩に頭を預けた。


電車は静かに夜の街を走っていく。

私たちはきっと、この先もこうして少しずつ、お互いの大切な場所を増やしていく。

その帰り道が、今日はいつもより少しだけ、あたたかかった。




°・*:.。.☆おまけまでお付き合い下さり
ありがとうございました°・*:.。.☆

••┈┈┈┈••おしまい••┈┈┈┈••