恋を知らないきみへ

木ノ下くんは基本、なんでも美味しいと言って食べてくれる。いつも残さず食べてくれる。

でも、なんとなく初めて聞いた時の『お母さんの唐揚げが好き』というエピソードが忘れられないでいた。


「木ノ下くんが美味しいって言うものは、ちゃんと作れるようになりたいんです」

サラダの盛り付けをしながら言うと、隣でお母さんがふふっと柔らかい微笑みを浮かべた。

「丞にはちょっともったいないくらいの子ね」

「逆です!」

「え?」

「木ノ下くんの方が、私にはもったいないくらいの人です」

「……ふふっ、そうかなあ。丞も同じこと言いそうだけど」

お母さんは笑いながらも、どこか嬉しそうに目を細めていた。


やがて、唐揚げや他のおかずが出来上がった頃にちょうどお兄さん夫婦も帰宅し、夕飯の時間となった。

「わあー!やったー!おばあちゃんのごはん、大好きー!」

テーブルいっぱいに広がったお料理に、良太くんが飛び跳ねて喜びを表現する。

「今日はみんな来てるし、ほのかさんも手伝ってくれたし、張り切りすぎちゃった〜」

良太くんのぶんを先に取り分けながら、お母さんがはにかむ。

普段は近くに住んでいるというお兄さん夫婦もたまにこうしてご飯を一緒に食べているのか、お義姉さんは慣れた様子で小皿などをテキパキ運んでくれた。

「ほのかさんのコミュニケーション能力がすごい……。さすが営業さんだよね」

感心したようなお義姉さんのつぶやきに、私は「いえいえ」と首を振る。

「私、人と話すのは大好きなので」

「なあ丞、どうやってこんな子つかまえたんだよ」

どうしても馴れ初めを聞きたいらしいお兄さんの質問を、「別に」の一言で交わす木ノ下くんが、ちょっと新鮮だった。