恋を知らないきみへ

「今日はね、唐揚げを作ろうかと思ってて」

お母さんがエプロンをつけながらそう言ったので、すぐさま私は反応する。

「唐揚げ!木ノ下くん、お母さんの唐揚げが好きだって言ってました!」

「そうなの!唐揚げの日だけは、おかわり三回もするんだよね」

「作り方、教えてほしいです!」

「こんなのでよければ、いくらでも」


お米を炊飯器にセットしたお母さんが、鶏肉の下味をつけるコツを教えてくれる。

醤油、料理酒、みりん、生姜、にんにく。
色々出てきた。

「だいたいでいいの、適当適当」

と言いながら一口大に切った鶏肉にザーッと調味料を入れていく。

「私の母もよく言います!その適当がすごく難しいんですよねぇ」

手際よく準備を進めていく手元に目を奪われていると、ふと顔を上げたお母さんがちらりと私を見やる。

「ほのさんは、お料理好きなの?」

「はい、好きです」

はっきりと言ったあと、生姜を擦っていた手を止めた。

「……でも、凝ったものは作れないですけど」

「お仕事してるんだもの、手抜きでいいのよ!毎日ちゃんとご飯を作るだけでも立派なんだから」


お母さんはまったく気にする様子もなく、私が擦った生姜を鶏肉の調味料の中に混ぜてくれた。

そしてしっかり揉みこんだあと、いったん冷蔵庫に入れる。

「たまのお休みの日に、ちょっと丁寧に作るくらいの気持ちで十分だと思うよ」

「……はい」

「唐揚げも、本当はほのかさんは普通に作れるんじゃない?」

「いえ、きっと味付けがちょっと違うと思います」