恋を知らないきみへ

「大したものではないですが、よかったらこちら皆さんで食べてください」

持ってきた菓子折りをお父さんに渡すと、またふにゃりと笑った。

「気を遣わせたね、ありがとう。お母さーん、お茶出してあげて」

「はいはい、今やってます」

キッチンから声が飛んでくるのを聞いて、反射で立ち上がりかける。
それを木ノ下くんに止められた。

「……いいよ、気にしなくて。母さん、今日を楽しみにしてたんだから」

「……う、うん」

気持ちは落ち着かないまま、座り直す。


「何歳なの?」
「丞とはいつから?」
「ぶっちゃけどこがいいの、丞の?」
「どこ出身?」
「顔小さいねぇ、モデルさんみたいだわ」


お茶を出されたあとは、口々に四方八方から質問が飛んでくる。
一個一個に答えたいのに、頭がまったく回転しない。

木ノ下くんはソファにもたれて面倒くさそうに眉を寄せていた。

「ちょっとさ、みんなもうちょい落ち着いてよ」


この雰囲気を一変させたのが、甥っ子の男の子だった。

「お姉ちゃん、名前なんていうの?」

つぶらな瞳に見つめられて、思わず心がほどける。

「ほのかだよ。私にも名前、教えてくれる?」

「良太!」

「良太くんかあ。かっこいい名前だね」


このくらいの歳の子は、“かっこいい”が響くのを知っている。

言われた瞬間から嬉しそうにニコッと笑ったので、こちらも笑顔になってしまう。

「ほのか!こっち来て!」

「おい、良太。呼び捨てやめろ」

あんなにリラックスしていた木ノ下くんが、目を丸くして思いっきり良太くんの頬をつつく。

「いいよ、大丈夫」

私がそう言うと、良太くんはすぐに手を引いてきた。