恋を知らないきみへ

ちょっと高級な菓子折りを持って、電車に揺られている。

ガチガチに緊張して指先が冷たくなっていくので、両手を何度も擦り合わせてはため息をつく。


「……大丈夫?」

「……だいじょばない」

「小関さんでもそういう顔するんだね」

まるで他人事のように笑っている木ノ下くんを、精一杯の力を込めて睨みつける。

「人生の一大事なの!」

「そんな試練みたいに言わないでよ。俺の実家で普通にご飯食べるだけだし」


ちょっとそこまで、みたいな言い方をしているけれど、要は木ノ下くんのご両親にご挨拶をするのだ。

深く息を吸って、頭の中でシミュレーションをしながら誰もいないところに頭を下げる。


「木ノ下くんを……息子さんをください!」

「違う違う!小関さん、しっかりして」

「じゃあなんのための挨拶?」

「いや、なんか小関さんに会ってみたいって言うから……」


彼のその言い方から察するに、あまり深く考えないで私の存在をご両親に話したんだろうなというのが、よく分かる。

どうしてもチラついてしまう、『結婚』という二文字。

……だめ、だめ。期待しちゃだめ。
今でも重いのに、これ以上重い女になったら本当に引かれる。


頬杖をついて、眠そうに窓の外を眺めている木ノ下くんを見つめる。

付き合って少しは経ったけれど、彼はまだなにも考えてないだろうな。
それだけは分かる。


木ノ下くんの口から実家の話は、意外とよく出る。

たぶん家族との仲は良好なんだと思う。
時間があれば距離が近いというのもあってたまに帰っているみたいだし、どんな家庭で育ったのか見てみたかった。


普段あまり乗らない路線の電車に乗って、馴染みのない駅で降りる。

それだけでよそゆきな気がした。

ここから先は、私の知らない木ノ下くんの時間が流れている。




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