恋を知らないきみへ

「木ノ下くん、知ってた?私の名前、小関ほのかなんだよ」


とある日の帰り道、私がそう切り出すと彼はさも当然のようにうなずいた。

「え?知ってるけど」

「私たち、いつまで名字で呼び合うの?」

「あー……」

指摘されて初めて気がついたみたいな声を出しているけれど、絶対どうやって話を逸らそうか考えている。

それくらい、段々と私にも分かるようになってきた。


「私、そろそろ“丞くん”って呼びたいな」


要望は随時伝えているつもりだったけれど、これはけっこう満を持して。


付き合ってもうしばらく経つ。
手も繋ぐようになったし、ハグもする。

それなのに、名前だけはずっと変わらない。

“木ノ下くん”と呼ぶたびに、この距離だけが取り残されている気がしていた。


だけど、隣を歩く彼の表情は浮かない。
すぐに分かる、乗り気じゃない。


「いい雰囲気の時とか、名前で呼ばれた方がお互いドキドキするよ、きっと」

「いや、それとこれとは」

「お願い!一生のお願い!」

「ははっ、ここで一生のお願い使っていいの?」

「逆になんでそんなに渋るの?」