恋を知らないきみへ

しばらく並んで、牛タン串と牛ハラミ串をひとつずつ買った私と木ノ下くんは、いったん飲食スペースへ移動する。


あちこち混んでいて、少しでも席が空くとそこに誰かが滑り込む。

まるで社食みたいだ、と困惑していると、いつの間に見つけたのか、二つ分の席を確保した木ノ下くんに「こっち」と呼ばれた。

「空いてる席、よく見つけたね」

「食べ終わりそうな人とか見てれば分かるよ」

彼はそう言って、牛ハラミ串をパクッと口に入れる。

「美味い」

早すぎる感想に、つい笑みがこぼれた。


「私もこっち食べてみるね」

牛タン串にかぶりつくと、ちょうどいい歯ごたえと旨みが口に広がった。

「うん!こっちも美味しいよ」

「あとで半分ちょうだい」

「今あげるよ!」

串を彼の口元へ差し出す。

木ノ下くんは一瞬だけそれを見て、私と目が合うと、ふいっと視線を逸らした。


「……その手には乗らない」

ぼそりとつぶやかれて、気づいた時には牛タン串はあっという間に彼の手に渡り、代わりにハラミ串を持たされていた。

「食べさせ合い、しよーよ。あーん、って」

「言うと思った。どんだけ周りに人がいると思ってんの」

頑なに首を振った木ノ下くんは、さっと牛タンを食べてしまう。