恋を知らないきみへ

「本当に……いいんですか?」


いつもの担当美容師さんが、鏡越しに何度も何度も確認してくる。

さっきから櫛でしつこいくらいにとかしているのも分かっている。


「はい、お願いします」

「もったいない……!」

「でも決めたんです」

「後悔……しませんか?」

「しません」


私があまりにも潔く言い切ったので、なぜか美容師さんの方が名残惜しそうに顔をしかめた。

そして、意を決したようにうなずく。

「……じゃあ、いきますよ」

「はい」

ジャキン、と髪にハサミが入る音が聞こえた。
ぱらりと落ちていく、伸ばしていた髪の毛。


───本当に似合うかどうかなんて、自分では分からないけれど。
でも、やりたいと思ったことには挑戦してみたい。




もともと別に、こんなに切る予定はなかった。

ただ毎月似たような周期で通っている美容室の予約を眺めて、木ノ下くんにぼそりとつぶやいたのがきっかけだった。


『けっこう前にさ、ボブにしようかと思った時期があったの』

『……髪?』

『そう』


仕事終わりにどこかで食べて帰ろうとなって、会社近くのファミレスに立ち寄った時のこと。

相変わらずモリモリ食べている木ノ下くんの向かいで、私はグラタンを食べながらスマホを見せた。
画面には、顎下でプツッと切り揃えた首元がすっきりしたヘアスタイルが映し出されている。

少し身を乗り出して写真を見た彼は、画面と私の顔を何度か見比べる。


……あ、やっぱり“やめた方がいい”とか言われるかも。

と身構えていたら、全然違うことを言われた。