恋を知らないきみへ

「木ノ下くん、お疲れ様」


仕事から帰ってきたばかりの彼は、「ただいま」と言うなりソファへ腰を下ろした。

テーブルの上には、コンビニで買ってきたらしいアイスコーヒー。

私はその隣へ座ると、何も言わずにぴたっと肩を寄せた。


「……また?」

呆れたような声。

「……充電」

「今日は何パーセント?」

「二パーくらい」

「ははっ、スマホ以下じゃん」

「そうなの。だから……」

私は遠慮なく腕に抱きつく。

「木ノ下くんのこと、吸いたい」

「……その言い方、ほんとやめてくれない?」


嫌そうな声を出すくせに、振りほどこうとはしない。

むしろ少しだけ肩を寄せてくれるものだから、私はその温かさに頬を預けた。


「仕事、だいぶ疲れた?」

「うん」

「商談?」

「今日は三件。最後のお客様がね、新ブランドの話をすごく気に入ってくれたの」

「へえ」

「木ノ下くんが考えたコンセプト、ちゃんと伝わってたよ」


彼は小さく「そっか」とだけ答えた。

それでも、その横顔は少しだけ嬉しそうだった。

そんな小さな表情の変化にも気づけるようになったことが、なんだか嬉しい。

私はまた、ぎゅっと抱きついた。


「……充電、長いな」

「まだまだ足りない」

「どれだけ電池容量あるの?」

「無限なんだよねぇ、これが」

「最悪だ」

そう言いながら、木ノ下くんは小さく笑った。

「……なんか俺、モバイルバッテリーみたいだな」


その言い方が的確すぎて、思わず吹き出してしまう。

「それだ!まさにそれ!」

「否定しないの?」

「だって本当だもん」