恋を知らないきみへ

ここで少し身体を起こして、木ノ下くんの目を見つめる。

「私は職業柄、お客様の要望を聞くのは得意なの。……でも、今日は逆になってくれる?恋人としての要望を、木ノ下くんに伝えるから」

「……それって聞くの勇気いるやつ?」

「木ノ下くんオリジナルだから勇気とかいらない」

「ほんとに?」

「私の要望、聞いてくれる?」

木ノ下くんは重い話だと受け取ったらしく、咳払いまでして神妙な面持ちでうなずいた。

まるでプレゼンが始まる前のような空気。


「まず、会社ですれ違う時ちょっとは笑ってほしい」

私が言ったそばから、ガクッと彼の力が抜けるのが見えた。

「……いや、なんの話?」

「要望!──違うか、トリセツ!」

「小関さんの?」

「最低でも週に一回……いや二回は会いたい。仕事の合間でもいいの」

「めっちゃ会いたがるじゃん」

困惑している木ノ下くんに構うことなく、私は話し続ける。
一個一個に反応されても、全部を伝えられなくなる気がしたから。


「メッセージより電話がほしい。声が聞きたい」

「……そっちが商談中とか、会議中だったら困るんじゃないの?」

「時と場合によるの。……それから、デートする時は手を繋ぎたい」

「か、考えておく」

「てか私服見たい」

「今度、どこか出かけよう」

「……約束だよ?」

「うん。まだある?」