恋を知らないきみへ

お風呂上がりにリビングで髪を乾かしていたら、ものの五分くらいでシャワーを済ませた木ノ下くんが戻ってきた。
もちろん髪は濡れたまま。

さすがにもう目は覚めたらしい。一応、開いている。


「そういえば、営業に引き継いでから問い合わせ増えた?」

テーブルに出しっぱなしにしていたお茶をコップに注ぎながら、彼が尋ねてくる。
私の分もコップを差し出してくれた。

ドライヤーのコンセントをまとめながら、コップを受け取る。

「うん。展示場でも『あの新しいブランドですか?』って聞かれること増えたよ。期待値が高まってるのは肌で感じる」

「そっか」

「なんか、すごい嬉しくてさ」

私はソファにもたれながらお茶を一口飲む。

「まだ発売してないのに、お客さまが興味持ってくれてるんだなって」

木ノ下くんも小さくうなずくと私の隣に座ってお茶を飲んだ。

「こっちは営業とは違って、発売前が一番怖いんだよ」

「“怖い”?」

「正解がないから」

少しだけ間が空く。

「作ってる時は、『これでいい』って思ってても、世の中に出た瞬間に全部答え合わせになる」


私はその横顔をつい見つめた。

……あんなに数字で裏付けして、あんなに統計も取って、きちんと自信を持って出しているように見える木ノ下くんでも、意外と本当は不安なんだ。