恋を知らないきみへ

広くはないリビングには、必要最低限の家具しか置かれていなかった。

二人掛けのソファにローテーブル、小さなテレビ、ベッド。

本棚には住宅やマーケティング関係の本が並んでいて、読みかけなのか数冊だけテーブルの端に積まれている。

生活感はあるのに、不思議なくらい物が少ない。きれい好きというほど整っているわけじゃない。
でも散らかってもいない。

木ノ下くんっぽい部屋だな、となんとなく思った。


最近は私が少食であることを理解したらしい彼が、先に米を半分くらいもらってくれたりする。

「肉フェスもラーメンフェスも絶対行けないじゃん」

彼らしい意地悪な言い方に、私はわざとらしく白米を口いっぱいに詰め込んだ。

「行けるよ!食べる気満々なんだから」

「今週末、ラーメンフェスあるよ」

スマホでささっと調べているあたり、木ノ下くんはこういう仕事も早い。

『今週末』というワードに、思わず頭を抱えてしまった。

「……あっ、週末は展示場担当だ」

「残念。俺ひとりで行ってくる」

「えっ!一緒に行きたい!」

「仕事でしょ?仕方ないじゃん」

「なんで引き受けちゃったんだろう……」


テレビの情報番組からはまだ日本各地では猛暑日を記録し続けているという話が流れ込んでいる。

私はちょうどいい冷房の効いたリビングで、あと少しの幕の内弁当をのんびり食べていた。

やっと食べ終わって振り返ると、とっくに食べ終わった木ノ下くんがソファにもたれてウトウトし始めている。