恋を知らないきみへ

『……小関さん、ワンコールもしないうちに出た』

「木ノ下くんだぁー……よかったー」

『まさか名前見ないで出た?』

「うん」

『……』


たぶん、電話の向こうで彼はため息をついていたと思う。
聞こえないふりをしておいた。

『遅くなったけど、いま終わった。まだ会社にいる?』

「まだいる!一階のエントランス!」

『じゃ、そのまま外に出て待ってて』

「……分かった」


木ノ下くんは、会社で私とこういう会話をするのを絶対に嫌がる。
それだけは分かるので、大人しく了解する。

『……あと、もう一個』

「うん、なに?」

『今日は帰るだけじゃない』

「───えっ?」

聞き返した時には、もう電話は切れていた。


ほとんど人のいないエントランスで、電話の会話内容なんて誰にも聞かれていないというのに、つい挙動不審に辺りを見回す。

性懲りもなく、また顔に出てるんだろうな、私。


半分手で覆いながら、生ぬるい風が漂う外で木ノ下くんを待つことにした。