恋を知らないきみへ

私が仕事を終えてスマホを見た時には、木ノ下くんからはまだなんの通知も来ていなかった。

もしかしたらまだかかってるのかも、と思ってメッセージを送るか悩むこと──五分。


『まだ仕事してるなら、一緒に帰るのはまた今度でもいいよ』

送信してから、バッグを肩にかけた。


本当は心の奥底から一緒に帰りたいけれど、だからといって偶然を装って待つのもおかしな話だし、なにより待っていたら確実に、愛が重い。

私の方が重いのがバレてしまう。
いや、もうバレてるかもしれないけれど。

こんな時、桃果あたりに相談できたらいいのだけど。
彼女に相談すると面白おかしくからかってくるので、参考にはならない。


しばらく待ってみたものの、返信は来ない。
……やっぱり今日は先に帰ろう。

私はまだ営業部に残っている数人の同僚に「お疲れ様でした」と声をかけて、フロアを抜けてエレベーターに乗り込んだ。


降下するエレベーターで、時折止まるたびに木ノ下くんが乗ってくるんじゃないかと期待するものの、その気配はない。

結局、一階に着いてしまった。


「……帰ろう」

握っていたスマホをポケットにしまおうとした時、メッセージではなく着信音が鳴った。


あまりにも不意打ちだったので、相手も確認せずに勢いよく電話に出てしまった。

「もしもし!木ノ下くん!?」

言った瞬間、相手が木ノ下くんかどうかも分からないのに出た自分を呪う。

───違ったら恥ずかしい。