恋を知らないきみへ

新ブランドは、来年の春夏に正式スタートすることが決まった。


私と木ノ下くんがゼロから作り上げた資料やコンセプトは、それぞれ専門部署へ引き継がれ、少しずつ私たちの手を離れていく。

もう会議室へ集まることもない。

「これ、どう思う?」
「またダメ出し?」

そんなやり取りも、気づけば思い出になっていた。


すべてが懐かしく思えてきた、秋の入口。

まだまだ蒸し暑い日は続いていたけれど、日差しが真夏のそれとは少し変わりつつあった。


「小関さーん!鹿又さんの件ってどうなった?」

「あ、要望に合わせて見積もり取ってます!明日午前中に打ち合わせも入ってます」

「じゃあそこに外構業者も入れちゃっていい?どうしても日程が合わなそうなんだ」

「分かりました。連絡入れておきます」

先輩との会話を終えてタブレットに予定を入れ込む。
そしてすぐに先方へ確認の電話も忘れずにしておいた。


提携企業への説明会も週末に控えていて、同時進行で準備を進めているからなお大変だ。

相変わらず、毎日忙しい。

就業中のデスクは本当に『散乱』という言葉がピッタリなほど、ファイルや資料で溢れ返っている。


はあ、とため息をつきかけた時、スマホが震えてふと手に取る。


『何時に終わりそう?』

───木ノ下くんだ!