恋を知らないきみへ

私は桃果と一緒にいるのに、野口さんはお構いなしだ。
自分の要件を伝えようと必死についてくる。

「前に約束してたご飯、今日はどう?」

「私、約束してません」

ちゃんと相手の目をまっすぐに見て言ったら、野口さんはそう返されると思っていなかったのかたじろいだ。

「ごめんなさい。二人でご飯は無理です。どうか別の方を誘ってください」


呆然と立ち尽くす彼に、なるべく丁寧に頭を下げてから私は桃果の腕を引いた。

なぜか桃果も野口さんと似たような反応をしていたけれど、あまり気にせず引っ張る。


社食から廊下へ出たところで、やっと普通に並んで歩けた。

そこで桃果が興奮気味に私の肩を叩く。

「ほのか、ほのか!」

「ん?」

「……すごい!全部笑顔で切り捨てた!」

「今ので、『行きたくない』って伝わったかな」

「伝わる!伝わるよ!伝わってなきゃただのヤバいやつ!」


ストレートすぎる彼女の表現に笑っていると、廊下の向こうから木ノ下くんが歩いてくるのが見えた。

同僚と思しき人と二人で歩いてくる。


……あ、まずい。顔に出る。全部出る。

でも木ノ下くんは彼氏である前に、私の仕事仲間でもあり同期でもあるわけで。


得意の営業スマイルを浮かべて「お疲れ様です」と挨拶する。

木ノ下くんも「お疲れ」と短く返してくれた。

……それ以上は無理だった。
顔に出るのが怖くて、私はすぐに視線を逸らした。


角を曲がったところで、桃果が飛び跳ねるようにして尋ねてくる。

「ねぇ、今のが木ノ下だよね?二人は会社ではあんまり話さないことにしてるの?……ってほのか?大丈夫?」

私が壁に寄りかかって両手で口を塞いでいるからか、ものすごく心配したように背中をさすってくる。

「だめ……心臓出そう……」

「えええっ!?」


木ノ下くんは、私を狂わせる天才かもしれない。