恋を知らないきみへ

ようやくカツ丼を完食した桃果は、お腹いっぱいなのかイスにもたれる。

「それにしても、木ノ下からしてみれば、この展開は急転直下なのでは?」

「───たぶん、私の方が急転直下かも」

「なにそれー!気になる!」


二人で話していると、いつかも声をかけられた営業部の先輩が「小関さん」と声をかけてきた。

「お疲れー。今日も忙しい?」

桃果は「来た来た」という顔をしてこちらを見ている。

「お疲れ様です。今日は午後から商談もありますし、立て込んでます」

「そっかー。じゃあ仕事終わりのメシは難しそう?」


───あ、なるほど。これは誘われてるのか。

瞬時に察して、にこりと笑顔を返す。

「すみません。今後も二人でご飯とかは無理です」

「え……」

先輩の表情が固まるのが分かったけれど、ここは私も前とは違う。

「ですので、どなたか違う人を誘ってみてください」


私はそれだけ言って、トレイを持って席を立つ。
合わせて桃果も急いで立ち上がって、私を追いかけてきた。

「……ちょっと、ほのか!」

「なに?」

「今の、いいの?」


桃果の問いかけに答えようとしたら、正面からまた見覚えのある男性社員。

……名前が、どうしても思い出せない。


「あっ、小関さんだー!」

「お疲れ様です」

一応、営業スマイルだけは向けてから返却口へトレイを戻す。
隣には桃果もいる。

「システム部の野口だよ!ついこの間、声かけたから覚えてるよね?」

彼は面白いほど自分でいつも名乗ってくれるので、その都度思い出させてくれる。

「……いま思い出しました」

正直に答えるも、彼は動じない。