恋を知らないきみへ

「もったいぶるつもりないから言うけどさ」

前置きするのも嫌だったし、隠すつもりもなかったので私は普通のトーンで続ける。

「マーケの木ノ下くんだよ」


けっこうはっきり言ったのに、桃果は一瞬誰なのか思い出せなかったらしく、動きが止まった。

そして、しばらくしてからゆっくりと、じんわりと効いてきたのか肩をすくめて目を見開く。
……まるで、漫画のような反応。

「……え!?木ノ下!?」

「ふふ、びっくりした?」

「ちょ、ちょっと待ってね。顔が思い出せない」

「あはははは」

正直すぎる桃果の反応が面白すぎて、私は笑いが止まらなかった。


そのうち少しずつご飯を食べすすめているうちに、彼女の中で木ノ下くんをちゃんと思い出したらしい。

「木ノ下かー、うっすら記憶は戻ってきた」

「同期なのにね」

「ほのかだって仕事で組む前はそんなもんだったでしょ」

「今はね、全部好き」

私があまりにも自然に口にしたものだから、桃果の方が戸惑ってむせてしまった。


「え!?なに、ほのか今、好きって言った?」

「言ったよ。木ノ下くんの全部が好き」

「えっ、えっ、えー!?どこが?顔?中身?」

「だから、全部。顔も中身も声も雰囲気も!」

「ほのかがそういうことを普通に言うのが驚き!ていうか、そんなに木ノ下ってかっこよかったっけ?」

「かっこいいよ!」


言い切った私は、もうすでにランチを食べ終わっていた。

空になった私のお皿を見て、彼女が慌てて残りのカツ丼をかき込んでいる。

すっかり呆気にとられている桃果をよそに、私は残りのお茶を飲み干していた。