恋を知らないきみへ

役員会議があっても、通常業務は待ってくれない。

その間にも、お客様に電話したり、メール対応したり、やることは山ほどある。
午後には商談も控えている。会議に気を取られてきちんと準備していないと、あとで絶対に後悔してしまう。


同僚に揃いも揃って「今日は雰囲気違うね」と言われるものだから、桃果のワンピース効果にびっくりさせられていた。

……そんなに似合ってないのだろうか、と心配になるくらい。


午前中はほとんど時計を見る暇もなかった。

展示場から届いたお客様情報を確認して折り返しの電話をかけ、商談の日程調整をして、見積書の修正を依頼する。


「ありがとうございます。では土曜日の十時、お待ちしております」

受話器を置くと同時にメールの受信音が鳴る。

今度は住宅ローン担当からの確認依頼。
返事を書き終える頃には、別のお客様から折り返しの電話が入った。

「はい、営業部の小関です」

次から次へと仕事が押し寄せてきて、一つ終わればまた一つ。

ちょっとコーヒーでも、なんて席を立つ余裕もなかった。


営業部長が役員会議から戻ってきたのは、十一時を少し過ぎた頃だった。

「小関さん!通ったよ!」

部長が真っ先に私の席へ来る。


仕事に集中していた私は、部長の声にハッとして顔を上げる。
私より先に周りのみんなが一気に拍手した。

笑顔、笑顔、笑顔。
全員があたたかい笑顔で、私を見てくれていた。

「お疲れ様!」
「やりましたね!」

そんな声が飛び交う中、ここでようやくほっと息をついた。


「部長、ありがとうございます」

立ち上がってそう言うと、部長は小さく首を振ってポンと肩に手を軽く置いた。

「なに言ってるんだ、小関さんたちが頑張ってくれたからだよ」


……よかった。心からそう思う。
と同時に思い浮かぶ、木ノ下くんの顔。

きっと彼も、今頃マーケティング部で同じ報告を課長から受けているはずだ。


嬉しい気持ちに浸る間もなく、電話が鳴る。

「はい、営業部、小関です」

気づけばすぐに受話器を取ってしまった。


どんなにいい場面でも、大事な会議が通ったあとでも、通常業務は待ってくれない。
それが悲しいことに、現実だ。


気づけば時計の針はもう十一時半を回っていた。




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