恋を知らないきみへ

あははは、と呑気な課長の笑い声を聞きながら、私はちらりと木ノ下くんに目をやる。

彼は私の方を見もしない。

……でも、なんとなく分かる。
たぶん今、助けてくれた。

その小さな優しさが、今は本当に嬉しいし、昨日の出来事が夢じゃないって思える。


「よし!なんとか間に合いそうだな。資料はとりあえず会議室に持って行ってもらえる?俺も準備できたら、あと向かうから」

「はい」

「よろしく頼むよ」

マーケ課長も会議に向けて動き出そうとしている。


私と木ノ下くんは指示通りに資料の束を抱えて、会議室へ向かうことにした。
資料の重さが、このプロジェクトの重さと同じに思えて緊張する。

廊下を進みながら、木ノ下くんが私の抱える資料を少し多めに取って持ってくれた。


無人のエレベーターに乗り込んだ私たちは、動き出した箱の中で小声で会話する。

「……会議、うまくいくかな」

「大丈夫だよ」

「でも、……もしだめだったら?」

なんとなく不安になって隣に立つ木ノ下くんを見上げると、彼は私と目を合わせるとふっと微笑んだ。

「だめだったら、また考えればいい」


木ノ下くんの良さは、最初から変わらない。

仕事がうまくいかなくても、その落ち込みやショックを顔に出さないところだ。
そしてさっさと次にいこうとする、切り替えの早さ。

一歩だけ、彼との距離を詰める。

さらに近くなった気配に、木ノ下くんが眉を寄せた。