恋を知らないきみへ

どうにもこうにも言葉を濁す木ノ下くんに問い詰めようかとしている時に、「おはよう!」というマーケ課長の明るい声がフロアに響く。

「木ノ下くん、小関さん、部長から聞いたよー。昨日遅くまで頑張ってくれたんだって?申し訳なかったね」

「「おはようございます」」

課長の登場に、私と木ノ下くんの挨拶の声が重なる。


「部長の確認は?取れた?」

パソコンを覗き込みながら課長が尋ねてきたので、木ノ下くんがすぐにうなずく。

「今ちょうど返事が来ました。『印刷よろしく』って」

「……何部?」

「予備入れて、十七部くらいですかね」

課長と木ノ下くんが顔を見合せているのが見えた。


……三人とも、時間を計算してるな。


「えーっと、小関さんも手伝ってくれる?」

課長が腕時計を確認しながら手招きしてくる。
こちらとしてはもちろんそのつもりだったので、大きくうなずいた。

「はい、大丈夫です」

「何枚あるんだっけ?」

「全部で三十五ページあります」

「そ、そんなに!?間に合うかな!?」

「三人でやればなんとか……。よければ部長も呼びますか?」

「小関さん、それはまずいって!」

三人の会話が入り乱れながら、マーケ部のコピー機が朝からフル稼働する。


まだ出社していない誰かの席を借りて印刷した紙を重ねてホチキス留めしていると、ふと作業していたマーケ課長が手を止めて私の姿をまじまじと見てきた。

「……なんかさ、小関さんいつもと雰囲気違うよね。服かな?服だよね?」

「───えっ」

いつもパンツスーツを着ているからか、さすがにワンピースはみんなの目につくのか、と内心慌てていると。

「課長。ページ順、間違えてます」

という冷静な木ノ下くんの指摘が入る。

「あっ、ほんとだ!一ページ飛ばしてた。木ノ下くんは目ざといなあ」

「役員会議で資料ミスは重大な事故です」

「やだなぁ、仕事ができる若い子は」