恋を知らないきみへ

化粧室に備え付けてあるフィッティングルームで桃果の服を着た私は、普段あまり着ることのないワンピーススタイルにちょっと違和感を覚える。

けれど、今はそんなことを気にしている余裕なんてない。


とりあえず急いで着替えて外に出ると、化粧室で待っていた桃果が半分呆れたように笑った。

「……ほのか、ワンピの破壊力ハンパないね」

「え?」

「ううん、なんでもない。それより!なにがあったのか説明してよ」

説明したいのは山々だけど、申し訳ないことに時間の余裕がまったくない。

「ごめん、桃果!お昼に話すから!絶対!とにかくありがとう!」

「ちょっと!ほのかー!!!」


まだなんか後ろから桃果の声が聞こえたけれど、私は逃げるようにバッグに前日の服を押し込めて化粧室から出た。


そして向かった先はマーケティング部。
私が着替えている間に、部長への送信は木ノ下くんが済ませてくれているはずだ。

他部署なので、いつもより丁寧に「おはようございます」と挨拶しながら木ノ下くんの席を目指す。

彼はもうパソコンを開いて完全に仕事モードだった。


「木ノ下くん、部長にデータ送れた?」

「うん、さっき送って今───」

私が声をかけたことで顔を上げた木ノ下くんが、一瞬言葉に詰まったのが分かった。

「なに?」

「……いや。着替えられたんだね」

「なんか言いたいことあるなら言ってよ」

「べつに」