恋を知らないきみへ

「小関さんがみんなから好かれてるのも嫌いだし、協調性の高さも嫌いだし、意外に仕事脳なのも嫌いだ」

「言ってることとやってること違うよ?」

「疲れて車で爆睡してるとこも嫌いだし、いちいちうるさいのも嫌いだし、こうやって喚いてるのも嫌い」

「……褒めるとこ、全然ないんだ」

「なんでもかんでも全力で頑張ってるところが、一番嫌い」


これだけキスしておいて、あちこち好きなだけ触っておいて、この場面でも「嫌い」を連呼するなんて。
私の「好き」に動じていないふりをするあたり、彼らしい。

「……嫌いなのに、こういうことはするんだね」

「……さあね」

「なんか、……木ノ下くんの“嫌い”が、“好き”って聞こえるの、気のせい?」


私の問いかけに、木ノ下くんは一瞬息を飲んだように見えた。
でもその反応を隠そうとするみたいに、唇が降ってくる。

……やっぱり、応えてくれないか。

そう思っていたら、静かな声だけが聞こえた。

「……気のせいじゃないよ」


───それはまるで、一種の告白みたいだと思った。

木ノ下くんにしかできない、木ノ下くんだけの言葉。


ふふっと吹き出して、愛しさに胸がいっぱいになる。

「木ノ下くん」

濡れたままの彼の髪を指ですくと、おでこが見えた。

たぶん、こういう仲にならないと見せてくれない部分な気がして、特別なんだと思える。


「……全部、好きだよ」


人を好きになると、こんなに何度も伝えたくなるものなのか。

私は今まで、知らなかった。
“ちゃんと”なんて付けなくても、好きは好きのままで届くのだと。


「……はいはい、分かった」

そう言って頭を撫でる手は、やっぱり少しだけ乱暴だった。

それなのに、どうしてこんなにも優しいんだろう。


私はもう知っている。
この人の『嫌い』は、本当は『好き』なんだって。

だからきっと、これから先も何度も「嫌い」って言われる。

そのたびに私は笑って、「好き」って返すんだろう。


───もう、気のせいなんかじゃないって知ってるから。