恋を知らないきみへ

まったくこちらは落ち着けていないのに、木ノ下くんはソファの隣に座ると悠長にお茶を飲んでいる。

「……髪、乾かさなくていいの?」

なるべくいつも通りに聞こえるように尋ねてみた。

ちらりとこちらを見た彼は、もう目を逸らすことはせずにうなずく。

「うん。俺、夏はいつも自然乾燥」

「木ノ下くんのおでこ、初めて見た」

「は?」

「だって、いっつも前髪でおでこも目も隠れてるんだもん」


私はそう言って、ソファに座り直すと少しだけ木ノ下くんと距離を詰めた。

「もっとよく見せて」

「……小関さん、自分がなに言ってるか分かってる?」

「分かってるよ」


木ノ下くんは、逃げない。

私がじっと見つめていても、ちゃんと見つめ返してくれる。
それがくすぐったい感覚にもなるし、満たされる気持ちにもなる。

……この人は、不思議な人だな。


不機嫌な顔の方が知ってるのに、たまに見せる笑った顔や、真剣な顔、そしてこうして見つめ返してくれる顔が、たまらなく愛おしい。


「好き」

また、ぽろっと言ってしまった。

自分でも驚くほど、簡単に言ってしまう。
でも伝えたくて、いま言わなければ後悔する気がして、全部を言いたくなる。

「好きだよ。私、木ノ下くんのことが好き」


さすがに、面と向かって言われると照れるのか彼は目を逸らそうとする。
でも、彼なりに頑張っているらしく、泳ぎかけた視線がちゃんと私に戻ってくる。

「……分かった」

ずっこけそうになる返事をされて、思わず口をとがらせた。


「違うでしょ!ここは『俺も好き』って言わないと」

「……それは嫌だ」

「どうして?」

「小関さんの思うつぼになる」

「魔性の女みたいに言わないでよ」

「実際そうでしょ」

「どこが?」