恋を知らないきみへ

「『好き』って言って!」と喚く私を、木ノ下くんがものすごく面倒くさそうにシャワールームに押し込む。

こんなふうになし崩しに事が進むなんて、思ってもみなかった。こちらは心の準備も何も整っていない。


両思いの実感がいまいち湧かないのは、どうしてなんだろう。
甘い言葉のひとつやふたつ、言おうと思えば普通は言えるはずなのに。

肝心な一言だけは口にしてくれない木ノ下くんに、不安が募る。

一日の疲れはシャワーで全部きれいに流れたけれど、ここから先の展開が分からない。



モヤモヤしたままシャワールームから部屋に戻ると、どうやらお弁当を食べ終えたらしい木ノ下くんが、空になった容器はそのままで、ソファで寝落ちしていた。

その姿を見て怒りが爆発する。

思いっきり体当たりしてやった。


「痛っ!」

「木ノ下くんのバカッ!」

「何時だと思ってるの、そりゃウトウトもするよ」

「こっちの気も知らないで!」

「ちょっと俺もシャワー浴びてくる」

「木ノ下くん!」

呼びかけたけれど、彼は完全に無視してシャワールームへ行ってしまった。


仕方なく半分やけくそで、私もお弁当を袋から出して少し食べる。
けれど、空腹のピークはとうに過ぎていてそんなに食べられなかった。


ソファの隅っこで折りたたまってうたた寝していると、不意に肩を叩かれて飛び起きる。

まだ髪が濡れた木ノ下くんが立っていた。

見慣れないビジュアルに心臓が飛び出そうになる。


「ちょ、ちょっと!いるなら声かけてよ!」

「寝るならベッドで寝たら?……ていうか」

彼は私が半分ほど残したお弁当を見下ろして、深いため息をついた。

「全然食べられてないじゃん。大丈夫なの?」

「こんな時間に全部は食べ切れないよ」

時計は深夜一時半を回っている。
夜食というにも、おかしい時間帯だ。