恋を知らないきみへ

終電はもうない。

タクシーで帰るには遠すぎて、どちらからともなく駅前のホテルへ向かった。

木ノ下くんに手を引かれたまま、私は一度もその手を離さなかった。


部屋に入った途端、コンビニで買ったお弁当とお茶が入った袋をドサッと雑にテーブルに置いた木ノ下くんが、ぐったりしたようにソファに腰かける。

入口に立ち尽くしている私に、いつもと変わらないテンションで声をかけてきた。

「小関さん、シャワー浴びたいんでしょ。先、どうぞ」


……いや、そうじゃないでしょう!
こっちの気持ちも知らないで、この男!

「き、木ノ下くん!」

「……なに」

「ここ、どこだか分かってる!?」

「ホテル」

「私まだ木ノ下くんから『好き』って聞いてない!」


できる限りの力を込めて彼を睨んだけれど、彼は私のことなんか見もせずに袋からお弁当を取り出している。

「言わなくても分かるでしょ」

「分かんない!分かんないからちゃんと言って!」

「……面倒くさいな。嫌なら帰る?」

「……帰りたくないよ」

「俺も」


たまに出してくるその絶妙に甘そうで甘くない本音をもっと引き出したいのに、そうはさせてくれないのが彼だ。