恋を知らないきみへ

聞き返した私の頬に、そっと彼の手が触れた。

走って熱を持った頬よりも、その手のひらの方が少しだけ冷たい。

逃げようとは思わなかった。
思えなかった。

木ノ下くんの顔がゆっくり近づいてくる。
息が触れそうな距離で一度だけ止まって、またまっすぐに私を見る。

まるで最後の確認をするみたいに。

私は待ち切れなくて、無意識に彼のシャツを掴んだ。

それとほぼ同時に、唇が重なった。


初めてのキスは、鳴り止まない心臓の音と緊張が入り交じって、まったく感覚がなかった。

唇が離れたあとも、どこを見たらいいのか分からなくて視線が彷徨ってしまう。


誰もいないホームで、終電が行ってしまった静かなこの場所が、特別なものに思えた。


木ノ下くんの腕が、ためらいがちに私の身体に回される。

「……やっぱり」

ぼそっと耳元でつぶやかれた。

「俺、たぶんきみのこと、嫌いだと思う」

「───は!?」


思わず身体を離そうとするのに、全然離れない。
離れないように、木ノ下くんがしっかり捕まえてきている。

……いや、なんなのこの状況。