恋を知らないきみへ

思わず声が大きくなった。

静かな会議室に、自分の声が妙にはっきり響く。
私ははっとして口をつぐんだ。

木ノ下くんも、さすがに少し目を見開いている。


……やばい。言いすぎた。

そう思った瞬間、彼がふっと顔を緩めた。


「今のは小関さん個人の意見なのか、営業全体で問題になるのか確認したかっただけ」

「……だったら、そう言えばいいじゃない」

「小関さんが怒ると思って言えなかった」

「怒らせたの木ノ下くんじゃん」

「怒ってる自覚はあるんだ」

「あるよ。誰のせいだと思ってるの」


そこまで言って、私は堪えきれなくなってとうとう笑ってしまった。

笑うつもりなんてなかった。
けれど、あまりにも以前と同じだった。

木ノ下くんも、わずかに口元を緩めている。

その表情を見た瞬間、胸の奥で固くなっていたものが少しだけほどけた。


「……じゃあ、『新ブランドで変わる、一日の家族の動線』は?」

私が言うと、木ノ下くんは画面へ向き直った。

「使える。でも、見出しとしてはまだしっくり来ない」

「……傷つくんだけど」

私の訴えは無視して、彼は少し考えたあと、ぽつりとつぶやいた。

「『一日の動線が、家族の時間を変える』」


彼が入力した文章を見て、私は一度だけ瞬きをした。

「……めっちゃいい」

「よかった。じゃあ決まり」

木ノ下くんがキーを叩く音が、静かな会議室に小気味よく響く。