恋を知らないきみへ

「設備の比較は残す。ただ、その前に一枚入れたい」

「どんな?」

「一日の時間の使い方」

「時間?」

「新ブランドを選ぶことで、家事に使う時間がどれくらい減って、家族と過ごせる時間がどれくらい増えるか」


そう言いながら私は資料の余白に簡単な図を書いた。

朝、洗濯、片付け、帰宅後の家事。

これまでアンケートやヒアリングで何度も聞いた、共働き家庭の慌ただしい一日だ。

「数字、出せる?」

「正確な時間までは難しいかも。でも、設備ごとに短縮できる動作は出せる。回遊動線なら移動が減るし、ファミリークローゼットなら片付ける場所をまとめられる」

「食洗機や乾燥機は既存ブランドにもある」

「だから、一個ずつの設備じゃないんだよ」


私はペン先で図を囲んだ。

「全部がつながってることを見せるの。洗濯して、干して、畳んで、それぞれの部屋へ運ぶんじゃなくて、洗う場所としまう場所が近い。買い物から帰ったら、玄関からパントリーへ直接入れられる。ひとつひとつは小さくても、一日の中では何度も繰り返す動作でしょ?」

木ノ下くんは何も言わず、私の書いた図を見ていた。


「……なに?」

「いや」

「変?」

「逆。これ、そのまま使えると思って」

彼が私の手元から紙を取り、パソコンの横に置く。

「朝と夜で分けて、従来の動線と比較する」

「従来って言い方はよくないよ。今売ってる家が古いみたい」

「じゃあ、一般的な間取り」

「それも曖昧」

「小関さん、否定するなら代案も出して」

「……いま考えてるの!」

「考えてから否定してよ」

「自社の商品と比較する資料で使ったら、今までの商品を古いって言ってるみたいでしょ」

「そこまで誰も思わない。営業が思うんじゃなくて、小関さんが思ってるんでしょ」

「もー! ああ言えばこう言うんだから!」