恋を知らないきみへ

一、ターゲット像が曖昧。
二、既存ブランドとの差別化が伝わりにくい。
三、価格に対する顧客メリットが弱い。
四、営業現場での説明方法を具体化。
五、初年度の販売目標の根拠を追記。


全部読み終えてから、また自然にため息が出る。


「……多いし、重いのばっかじゃん」

「まあ、そうだね」

「これ、もっと早く指示ほしかったよね」

「役員なんてこんなもんだよ。ちゃんと目を通すのは直前っていうか、最後に急に細かくなる」

「“忙しい”とか“時間ない”とか言い訳して、きちんと読んだのが今日なんじゃないの」

私が言うと、木ノ下くんがわずかに眉を寄せた。

「小関さんの毒、久しぶりに聞いた」

「毒じゃないよ。明日会議なのに今日言ってくるとか、普通はありえないんだから」

そう言い返してから、以前と同じ調子で話していたことに気づいた。

木ノ下くんの視線も、一瞬だけ止まる。

けれど次の瞬間には、何事もなかったように画面へ戻っていた。


「まず、優先順位決めよう」

その声はもう、仕事のものだった。

「全部一気には無理だから、役員会議で絶対に聞かれそうなところから直す」


私はイスを少し机へ寄せ、資料をもう一度めくった。

「一番は価格かな」

「俺はターゲットだと思う」

「でも価格差を説明できなかったら、営業は売れないよ」

「ターゲットが定まってなかったら、誰に向けて説明するのかも決まらない」

「ターゲットは決まってるでしょ。二十代後半から三十代前半の若年層ファミリー」

「それが曖昧だって言われてる」