恋を知らないきみへ

「……修正って、どのくらいあるの?」

『営業目線の修正もある。だから、小関さんにも見てもらいたい』


……“営業”。

その一言で、帰るという選択肢は頭の中から消えた。


「分かった」

私は閉じかけたノートパソコンを開き直し、バッグを肩にかける。

「今からそっち行くよ」

『マーケはまだ人が残ってるから、資料とか広げづらい。小会議室B使おう』

「……小会議室B」


思わず、その部屋の名前を繰り返してしまった。

プロジェクトが始まったばかりの頃、何度も打ち合わせを重ねた場所。

ホワイトボードいっぱいにアイデアを書き出して、意見をぶつけ合って、何度も行き詰まりながら、それでも少しずつ形にしてきた。

あの頃は、木ノ下くんと夜遅くまで一緒に仕事をする日も少なくなかった。


『じゃ、あとで』

短い言葉を最後に電話が切れる。

私は受話器を置くと、小さく息を吐いた。

……今日は、長い夜になりそうだ。




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