恋を知らないきみへ

なんて言えばいいのか言葉を探して目を泳がせていると、それが肯定と捉えた野口さんが目をキラキラさせてスマホを取り出した。

「そしたらさ、今度二人でご飯行こうよ」

「えっ、いや、あの」

「ちょっとメシ食うだけだからさ、ね?」

「……すみません」

ここはきちんと言わなければいけない場面だということだけは分かる。

スマホに指を滑らせていた野口さんの不思議そうな視線が私の顔に向けられた。


「今はちょっと、そういう気分にはなれないです」

私なりに、精一杯断ったつもりだった。


さすがに野口さんも私の表情でようやく察したのか、私を見つめたあと、後ろにいる木ノ下くんの存在がやっと気になったのかちらりと目を向ける。

「あー……そっか。そうだよね、ごめん!」


彼はぽりぽりと頬をかくと、にこっと明るい笑顔を浮かべた。

「じゃあ日を改めてまた誘うわ!」

「い、いやそうじゃなくて」

「じゃあまた!」


私の意図が伝わったのか伝わっていないのか、それは曖昧なまま野口さんが手を振りながら向こうへ歩いていく。

こちらは無言で頭を下げるしかできなかった。


「……」

妙な沈黙が私と木ノ下くんを包む。

……気まずい。超気まずい。


どちらともなくまた歩き出す。
今度はちゃんと並んで歩いていた。


「……小関さんさ」

木ノ下くんがぼそっとつぶやく。

「彼氏と別れてから、ずっとこんな感じなの?」

「……うーん、どうだろう」

聞かれて初めて、ここ最近のことを考える。
桃果にも言われたけれど『しばらく続くよ』と忠告された。

それは、今みたいなことなのだろうか。

「最近は、ちょっと多いような気もする」

「……そっか」


少し間が空く。

「気をつけた方がいいよ」

「え?」

木ノ下くんが、そんなことを言うなんて思ってなかった。
思わず彼の方を見つめたけれど、目は合わない。

「断ったつもりでも、伝わってない人もいるから」

それだけ言うと、彼はまた前を向いた。


彼はそれきり何も言わなかった。

なんとなく気まずいまま、私と木ノ下くんはエレベーターホールへ向かった。