恋を知らないきみへ

「私は……」

ここでどう言えばいいのか分からなくて、途中で言葉を探す。

「その……」

口ごもっているうちに、会議室が静かになった。


設計担当者がこちらを見る。
広報担当者もペンを止める。

部長は急かすことなく返事を待っている。


営業だけで答えられなくても、今この場で求められている答えを言わなくちゃいけないことは、分かっている。

───でも。

“どこを強みとして売るか”

それは、営業が決めることじゃない。


「えっと……」

自分できちんと答えなきゃ。
そう思えば思うほど、頭が真っ白になっていく。

みんな、私が答えるのを待っている。
そのプレッシャーだけが肩にのしかかる。

……どうしよう。

ペンを握る手に、自然と力が入る。


その時だった。

「部長」

思いもしない方向から静かな低い声が割って入る。

木ノ下くんだった。


「その質問は、まだ営業では答えられないと思います」

部長が少し意外そうな視線を木ノ下くんへ向ける。
その場の空気が一気に変わったのを肌で感じた。

会議室中の視線が集まっても、木ノ下くんは落ち着いた口調のまま続けた。

「価格に対して何を価値として打ち出すかは、マーケ側で最終的に整理してから営業へ共有する予定になっています」

感情を見せない淡々とした口調で、彼はスクリーンに映った価格表を見やる。

「ですから今、小関さんが持っているのは、お客様が何を求めているかという現場の情報です。その情報をどうブランドへ落とし込むかは、こっちの仕事になります」

彼が言い切ったあと、一瞬だけ会議室が静まり返る。