恋を知らないきみへ

この日の会議は、新しく何かを決めるというより、これまで積み上げてきたものを一つずつ確認していく時間だった。


ブランドコンセプトも、間取りも、パンフレットも、何度も話し合いを重ねてきた。

今日は、その仕上げに向けた細かなすり合わせが中心になる。


「それじゃあ、次は営業資料の構成について確認しましょうか」

部長がそう言うと、広報担当者が資料を切り替えた。

スクリーンには、営業がお客様へ提案する際に使う説明資料のラフが映し出される。


「一枚目はブランドコンセプト。二枚目で間取りの特徴、三枚目で設備仕様を紹介する流れです」

「うん。だいぶ形になったね。小関さん、営業としてはどうかな」

部長に尋ねられ、私は資料へ目を落とした。

「三枚目の設備紹介なんですけど……」

ページをめくりながら気になったところを指摘する。

「機能を並べるだけだと、お客様は意外とピンと来ないと思うんです」

「ピンと来ない?」

「はい。例えばランドリールームなら、『洗う・干す・しまうが一か所で済みます』っていう説明より、『洗濯物を持って家中を歩かなくて済みます』って伝えた方が反応はいいです」

「ああ、なるほどね」


部長はわりとすぐに理解したのか、広報担当者に小声でなにかを伝えている。担当者はすぐにメモを書き始めた。

広報担当者は資料に書き込んだあと、私に確認するように視線を向ける。

「つまり、生活が想像できる説明……ですね」

「そうです。お客様って設備より、自分が住んだ時のイメージを知りたい方が多いので」

「うん、いいね」

そこまで聞いていた部長が満足そうにうなずく。

「そういう営業目線はどんどん入れてほしい」


部長の肯定的な言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。

木ノ下くんの方は見なかったけれど、ペンを走らせる音だけが聞こえてくる。
彼は前と同じで、マーケ部の課長と座っていた。