恋を知らないきみへ

言いたいことを言ってぶつかり合って、だめな時は否定して、いい時は肯定する。

お昼になにをどのくらい食べたのか意外と覚えてくれて、自分のついでだと言いながら軽食を買ってきてくれる。

私の仕事の都合に合わせて、一日に三回、細切れの打ち合わせになっても文句も言わない。

ほんの少しいつもと違う態度を取られただけで、心を全部持っていかれるような感覚。

……ここ最近の私の全部を、思い出してしまった。


桃果が息を飲むのが分かった。

そんな彼女に、私は笑いかける。できるだけいつも通りに。

「安心だけじゃだめなんだなって。……それに気づいちゃったから」


雑談でざわめく社食の空気に紛れて、さらに声を抑えた桃果が小さく尋ねてきた。

「……相手、いるの?」

やっぱり、桃果はそういうところに鋭い。
入社当時からずっと仲がいいからこそ、何かを感じ取ったんだと思う。

私は少し押し黙って、でも隠すのも違うと思ってうなずいた。

「……たぶん」

「社内?」

すかさずさらに聞かれたものの、さすがにそこまでは答えられずに目を逸らす。


私のその仕草をどう思ったのかは分からないけれど、桃果がドサッとイスにもたれた。

「……その人とはうまくいきそう?」

核心を突かれて、張り詰めていた力がふっと抜けた。

「──嫌われてる」

「……はあ!?ほのかが!?」

今度は起き上がってまた身を乗り出す桃果。
もたれたり起き上がったり、忙しそう。