恋を知らないきみへ

顔を上げられないでいると、底抜けに明るい声。

「ほのか、お疲れ!」

同じくオムライスをトレイに乗せた桃果だった。
見慣れた顔だったから、気が抜けてふわりと笑みがこぼれる。

「……あーよかった、桃果かぁ」

「私もちょうどよかった。ほのかと話したくて」

「え、なんか急ぎの話?相談?」


オムライスにスプーンを差し込んでちらりと桃果を見やると、彼女にしては珍しく神妙な面持ちでこちらを見つめている。
どこか気まずそうで、それでいてうずうずしているような顔だった。

そんな彼女を不思議に思って首をかしげた。


「……桃果?なにかあったの?」

「それはこっちのセリフなのよ」

「え?」

聞き返した次の瞬間、桃果が身を乗り出して私に顔を近づけてきた。

桃果のブラウスにオムライスのケチャップがつかないか、こちらがひやひやするほど身を乗り出している。

「桃果、ケチャップ……」

「千崎さんと別れたってガチなの?」


一瞬だけ、私と桃果の間に沈黙が流れた。

ケチャップは結局、すんでのところで彼女のブラウスにつかなかった。

「……うん。別れた」

「待ってよ、どうして?喧嘩したの?千崎さんが浮気したとか?順調だったんじゃないの?」


噂に妙な尾ひれがついて大げさになりつつあるのかもしれない、というのを桃果からの話で思い知らされる。

当たり前に面白おかしく予測されて、どちらかが悪者にされてしまうのだ。

社内恋愛の難しさは、こういうところで痛感する。