恋を知らないきみへ

この日の午前中は外回りで取引先を駆け回り、ようやく涼しい会社へ戻ったと思えば、午後からは新ブランドの会議だった。

そんな目まぐるしい日々が、しばらく続いていた。


混雑している社食をコソッと覗いてみる。

端っこ、端っこ、端っこ。
社食の端という端を確認して、木ノ下くんがいないことを確認してから入った。

端の席にいなければ、彼はもう昼食を済ませて、ここにはいないはず。


……顔を見たいけど、会いたくはない。

自分の不安定な情緒と戦うのが、本当にしんどい。

世の中の片思いをしている女の子を、心から尊敬する。
この気持ちを抱えたまま、毎日を過ごしているなんて。


「……無理」

誰にも聞こえないくらいの声で、ぼそっとつぶやきながらトレイを持った。


オムライスを注文してお茶をコップに注いだら、すぐに一番端の席を目指す。
ラッキーなことにそこが空いていた。

いつも木ノ下くんが座る席。

彼が『知り合いと遭遇する確率が下がる』と言っていたからここを選んだ。


トレイを置いてイスに腰を下ろすと、向かいの席にするりと座る気配。

ビクッとして肩が震える。

───まさか、木ノ下くんじゃ、ないよね?