恋を知らないきみへ

けれど今日は、その気配はなかった。

木ノ下くんが以前のように言葉を足してくれないことは、分かっていたはずなのに。胸の奥が小さく沈む。


「マーケ側はどう?前回、分かりやすさを重視した方がいいという意見があったけど。なにかある?」

部長に話を振られ、ここで木ノ下くんが顔を上げた。

彼はそれまで書き込んでいた資料をちらりと見たあと、部長に向き直る。

「方向性はいいと思います。その方がブランドにも合っていますし」

てっきり否定されるかと思いきやそうではなかったので、思わずペンを持つ指に力が入る。

「コピーの中で過ごし方まで限定する必要はないと思います。時間が生まれることだけ伝えて、どう使うかは見る人に委ねた方が、お客様自身が、その先の暮らしを想像しやすくなると思います」

「そうか。じゃあ、その方向でもう一度考えてもらおうか」


何度かうなずいた部長が広報担当者に視線を送ると、

「分かりました」

と担当者が返事をして、コピーの横にメモを入れていく。


その話は、あっさりとそこで終わった。

木ノ下くんはもう、次のページへ視線を移している。


私の意見を受けてくれた。

前回のように、私だけを避けるような態度ではない。

それなのに、嬉しいと思った直後には、もう少し何か続くことを期待していた自分に気づく。


……おかしい。
仕事の会議で、意見に賛成されただけなのに。

落ち着かない鼓動をごまかすように、私も急いでページをめくった。